値引きはできません(定価で売っています)/取り寄せはほとんどできません/ 買取はしていません/表紙の写真が小さいのは、政令が 32,400 画素と 決めているからです

Kiyosumi-Shirakawa, Koto · Okuzuke

奥付写真集と美術書の店おくづけ/本のいちばん後ろの頁奥付に、部数は書いてありません。

江東区三好、清澄白河の路地にある十二坪の本屋です。写真集と美術書とZINEだけを、全部表紙を正面にして二千四百冊ほど置いています。このページには、なぜこの値段なのか、その本が何部刷られたのか、もう一度会えるのか、そして表紙の写真がなぜこんなに小さいのかを、全部書いてあります。読みたい本が決まっている人より、値段に驚いて帰ろうとしている人のために作りました。

  • 写真集・美術書・ZINE
  • 約2,400冊
  • 買切だけ
  • 表紙は32,400画素まで
  • 12坪
壁一面の棚に、写真集と美術書が表紙を正面にして並んでいる。よその国のよその店で、うちの棚ではない。

About this photograph

  1. 1よその国の、よその店です。うちの棚ではありません。棚板の色も、天井の高さも、置いている冊数も違います。
  2. 2棚板に、スマートフォンで読み取れば値段が出る、という札が立っています(中国語と、wechat scan for price の英語)。値段を札に刷らず、電話で読ませる店です。うちは全部の本に値札を貼っています ── 見ただけでは値段の分からない棚には、しません。
  3. 3写っている表紙は全部、実在の本のものです。うちが売っている本ではありません。右下に平積みの台が写っていますが、うちに平台はありません。十二坪なので、全部が面陳です。
  4. 4人は一人も写っていません。うちも、客は撮りません ── 何を買ったかは、その人のことだからです。
  5. 5この一枚には、数えきれない数の表紙が、32,400 画素よりずっと大きく写っています。それが許されているのは、これが本の写真ではなく店の写真で、表紙は付随して写り込んでいるだけだからです(著作権法第30条の2)── 四の節の第47条の2 とは、別の条文です。そしてもう一つ。うちが載せる表紙の写真は、その本が売り切れた日に下ろします。この一枚は何も売っていないので、下りません。このページでいちばん長く残る写真は、何も売っていない一枚です。

Photo: qingyu / Unsplash

Why it costs this much

なぜ、この値段か

¥420,000 ÷ 部数

写真集の値段は、装丁の趣味でも、店の取り分でもありません。作るのにかかった費用を、何人で割るか ── ほとんどそれだけです。だから同じ厚さの本が、二百部なら一万円を超え、三千部なら三千円台になります。下の装置は、その割り算をそのまま出したものです。

How many copies

同じ本を、何部刷るとしますか

On the scale

100
1,000
10,000
100,000

200 部

The arithmetic

固定費 ¥420,000 ÷ 200
¥2,100
変動費(一冊ずつかかるもの)
¥780
一冊あたりの製造費
¥2,880
÷ 28%(版元・著者・取次・書店の取り分を戻す)
¥10,290

税込 ¥11,320

固定費 73%変動費 27%

If you printed ten times as many

2,000部 刷ると、定価は ¥3,540 ── ¥6,750 下がります。下がっているのは固定費のぶんだけで、紙と刷りと製本は一冊ずつかかったままです。

固定費と変動費の中身

Fixed · 一度だけ

製版・分解
¥180,000
色校正(三回)
¥96,000
刷版
¥74,000
印刷機の段取り
¥70,000

Per copy · 一冊ずつ

¥260
刷り
¥250
折り・綴じ・表紙まわり
¥270

これはこの店の見積もりです。版元の計算ではありません。紙の値段も、部数ごとの刷り代も、本当は一件ずつ違います。ここで出るのは「だいたいこういう形になる」という形のほうで、金額そのものではありません。

割り算で薄くなるのは、製版と色校と段取りだけです。紙と刷りと製本は一冊ずつかかるので、部数をいくら増やしても残ります。三千部を三万部にしても、下がるのは数百円です。

そして、いちばん安く出る答えの本 ── 三万部刷る本 ── は、うちには入りません。文庫と新書のことで、この店の軸の外にいます。安く作る方法はあります。ただし、その方法で作れる本ではないから、この店に置いてあるのです。

The print run

部数のこと

200 – 30,000

その本が、この世に何冊あるか。うちが数えているのはそれだけです。少ないほど良い本、ということではありません ── 少ないのは、決心の大きさか、資金の小ささか、判型の大きさのどれかで、中身とは関係がありません。

  • ZINE・リトルプレス

    100
    1,000
    10,000
    100,000

    200 部

    部数
    作った人が自分で刷ります。奥付そのものが無いこともあります。
    重版
    まず、かかりません。刷り直すお金が、個人の財布から出ていくからです。
    うちの棚では
    いちばん長くいます。二年たっても同じ場所にある本があります。
  • 写真集(個人の)

    100
    1,000
    10,000
    100,000

    700 部

    部数
    版元が付いても、この判型と色数ではこれくらいです。
    重版
    ほとんど、かかりません。売り切れたら、それで終わりです。
    うちの棚では
    半年から一年。うちで二番目に長い種類です。
  • 翻訳の美術書

    100
    1,000
    10,000
    100,000

    2,500 部

    部数
    原書の版元と結んだ契約に、期限があります。
    重版
    契約が切れれば、売れていても刷れません。日本語版だけが先に無くなります。
    うちの棚では
    三か月から半年。
  • 展覧会の図録

    100
    1,000
    10,000
    100,000

    3,000 部

    部数
    会期のあいだに会場で売り切る前提で作られます。
    重版
    かかりません。展覧会が終われば、その本を作る理由そのものが無くなります。
    うちの棚では
    いちばん早く消えます。会期が終わってから探す人が多いからです。
  • 美術書(版元の)

    100
    1,000
    10,000
    100,000

    5,000 部

    部数
    全集や技法書など、長く売る前提のもの。
    重版
    かかることがあります。かかれば、また買えます。
    うちの棚では
    半年ほど。
  • 文庫・新書

    100
    1,000
    10,000
    100,000

    30,000 部〜(数えていません)

    部数
    数えても意味がありません。増えるからです。
    重版
    かかります。売れているあいだは、いつでも買えます。
    うちの棚では
    うちには置いていません。この軸の外にいる本です。

少ない本ほど、この店には長くいます。二百部の本を買う人は、そもそも 少ない。しかも買切なので、返す期限がありません。いちばん早く消える のは三千部の図録のほうです ──「珍しいからすぐ無くなる」は、棚の上 では逆になります。

目盛りは対数です。二百部と三万部を一本の線に載せるには、そうするしかありません。つまりこの線の上では、二百と二千の隔たりと、二千と二万の隔たりが、同じ幅に見えます。実際には桁が一つ違います。それから、ここに出ている部数は奥付に書いてある数ではありません ── 奥付に部数は書いていないので、全部うちが作った人に訊いた数です。訊けていない本には、棚の札に「訊いていません」と書いてあります。

Whether it comes back

もう一度、会えるか

1刷

「今日でなくてもいいですか」と訊かれます。正直に答えると、多くはだめです。うちに並んでいる本の八割ほどは、売り切れたらそれで終わりで、また刷られることはありません。ただしそれは、今日買ってくださいという意味ではありません。買わずに済ませる道が四つあります。急いでいる人には、そちらを先に出します。

  • 図書館

    写真集と美術書は、区や都の図書館がよく持っています。館内なら誰でも読めますし、高い本ほど置いてあるのは本当です。買う前に中を見たいなら、いちばん確実な道です。

  • 古本

    絶版になった写真集は古書店に流れます。定価より高いこともあれば、安いこともあります。うちは古本を買いも売りもしないので、そこはよその店の仕事です。値段はその店が一冊ずつ付けているので、探せば違いがあります。

  • 作った人に、直接

    ZINE と自費出版は、作った人の手元にまだ残っていることがあります。うちに三冊しか入っていなくても、作者の部屋に百冊あるのは普通のことです。奥付か、その人の告知に連絡先が載っています。うちを通す必要はありません。

  • 展覧会の会場

    図録は、会期中なら会場がいちばん確実で、たいていいちばん安い(送料も手数料もかからないので)。会期が終わってから探しにくるのがいちばん多いので、これは先に言っておきます。

この四つを先に出すのは、うちが親切だからではありません。この店は、頼まれた本を取り寄せる商売をしていないからです。版元と直接やりとりして、一冊ずつ選んで、買い切って並べる ── それしかしていないので、「無いものを探す」窓口としては弱い店です。弱いところを隠して並べても、来てから分かるだけです。

About the covers

表紙のこと

32,400画素

この店の商売は、表紙を見せることでできています。十二坪で全部を面陳にしているのはそのためです。ところがこのページでは、その表紙をほとんど見せられません。理由は一つだけで、しかも店の判断ではありません。

  • 著作権法 第47条の2

    表紙を載せるのに、版元の許可は要りません

    美術や写真の著作物を売ろうとしている人は、その申し出のために、その著作物を複製したり、インターネットに載せたりしてよい ── 著作権法にそう書いてあります。断りを入れる必要も、お金を払う必要もありません。うちがこのページに表紙を並べられるのは、この条文のおかげです。

  • 著作権法施行令 第7条の2/施行規則 第4条の2

    決まっているのは、大きさだけです

    「著作権法で表紙を載せてはいけないことになっている」は、事実ではありません。法律は載せてよいと言っていて、決めているのは大きさだけです ── 政令と規則で、画面に載せる場合は 32,400 画素以下。百八十かける百八十ほどです。うちの表紙の写真が小さいのは、遠慮しているからでも、版元が怖いからでもありません。政令に書いてある数だからです。

  • 著作権法 第47条の2(申し出のため)

    売り切れた本の表紙は、翌日に下ろします

    認められているのは「売ろうとしている」あいだだけです。売り切れて、もう仕入れられない本の表紙は、うちが売る申し出をしていない本の写真になります。だから下ろします。棚が空くのと同じ速さで、この画面も空きます。先月見た表紙が無くなっているのは、そういう理由です。

  • 許諾(法律の外)

    大きい写真は、訊いて載せています

    32,400 画素は上限であって、うちの写真が全部それなのではありません。ZINE と自費出版は作った人が目の前にいるので、訊けば済みます。訊いて「いいですよ」と言われたものは、大きく載せています。つまり小さい写真は、法律のせいではありません ── 訊いていないせいです。版元の写真集は数が多くて訊ききれていない、というだけの話です。

  • 著作権法 第30条の2(写り込み)

    上の一枚が許されているのは、別の条文です

    このページのいちばん上にある写真には、表紙が数えきれないほど、32,400 画素よりずっと大きく写っています。あれが許されているのは、本の写真ではなく店の写真で、表紙は付随して写り込んでいるだけだからです。第47条の2 とは関係がありません。結果として、このページでいちばん大きく表紙が写っているのは、うちが売ろうとしていない本になります。

The size, at actual size

32,400 画素が、どれくらいか

Pick a shape

どの形で載せますか(どれも上限ちょうどの大きさです)

180 × 180 32,400 画素(上限 32,400

載せられます。

版元に訊く必要はありません。著作権法第47条の2 が、売ろうとしている人に認めている大きさの中です。

Actual size

この枠は原寸です。⚠️ 中には何も入れていません。

くらべるもの ── A5判の表紙を、画面に原寸で559 × 793 443,287 画素。上限の 13.7 倍です。

この枠は原寸です。縮めて見せているのではありません。表紙の写真を選ぶとき、うちがやっているのはこの中に何を入れるかという話で、たいていは題名も読めません。だから棚の写真は撮らず、かわりに文字で書いています ── 何部の本で、どこの誰が作って、いつまで買えるのか。写真の代わりになったのは、写真ではなく文章のほうでした。

The shelves

棚の中身

2,400冊

十二坪、壁四面と島が一つ。全部が面陳なので、置ける冊数は棚差しの店の三分の一ほどです。そのぶん、背だけになる本がありません。

冊数
約2,400冊(うち ZINE と自費出版が約600)
置いていないもの
文庫・新書・雑誌・コミック・文房具
仕入れ
取次を通さず、版元と作った人から直接
並べかた
全部が面陳。棚差しは一冊もありません
棚の札
部数・刷・発行年・訊いたかどうかを書いています
入れ替え
火曜と水曜(休みの日にやっています)

棚の札に部数を書いているのは、値段の理由がそこにしか無いからです。七千七百円の本の隣に「初版700部・訊いた」と書いてあれば、高いと思うか安いと思うかは、その人が決められます。うちが「良い本です」と書くより、そのほうが早い。

No returns

買切のこと

0冊

この店は、仕入れた本を返せません。取次を通さず、版元と作った人から直接、買い切りで仕入れているからです。返品の伝票を書いたことが一度もありません。

  • 返せないので、選ぶのに時間がかかります

    返せる仕入れなら、迷ったら入れて、売れなければ返せばいい。うちはそれができないので、入れると決めた本は最後まで自分で持ちます。棚が狭いのはそのせいでもありますが、狭いから選んでいるのではなく、返せないから選んでいます。

  • 返せないので、急いで棚から下ろす理由がありません

    返品に期限のある仕入れだと、期限の前に返さなければ損をします。うちにはその期限が無いので、売れるまで置けます。二年前に入れた ZINE が今日も同じ場所にあるのは、売れ残っているからではなく、下ろす理由が無いからです。

  • 返せないので、間違えると残ります

    去年、四十冊入れて六冊しか売れなかった本があります。残りの三十四冊は今もこの店にあり、これはうちの読み違いです。値段は下げません ── 下げられないからでもありますが、下げれば買った六人に対して筋が通らないからでもあります。

返した冊数はゼロです。開業から一冊も返していません。これは自慢ではなく、返す道が無いというだけの話です。

What we cannot do

できないこと

9

方針ではなく、理由の一覧です。どれも理由が先にあるので、例外が作れません。読んで、それでもよその店のほうが都合がよければ、そちらで買ってください。

  • 本の買取はしていません

    使った本を買ってまた売れば古物営業で、公安委員会の許可が要ります。うちは持っていません。取ろうと思えば取れる許可ですが、そのつもりがないので取っていません。

  • 値引きはできません

    定価で売っています。決めているのは出版社で、うちはその条件で仕入れています。それから、値引きの原資もありません ── 五千円の本でうちに残るのは千百円ほどです。

  • 取り寄せは、ほとんどできません

    取次と口座を持っていないので、書店の注文の仕組みに乗れません。版元に直接訊けば取れることもありますが、二週間から一か月かかります。急ぐなら大きい書店かオンラインのほうが確実です。

  • 表紙の写真を、大きく載せられません

    四の節に書いたとおりです。作った人に訊けたものだけ、大きくしています。

  • 中身の写真は載せません

    写真集の中身は、その本を買う理由そのものです。載せれば売る手伝いではなく、本の代わりを作ることになります。法律の話ではなく、こちらの判断です。

  • 「泣ける」「人生が変わる」とは書きません

    読んでどうなるかは、店には分かりません。帯に刷ってある惹句も、出版社の広告であってうちの言葉ではないので、そのまま引いて使うこともしません。

  • ランキングを出しません

    二千四百冊のうち、年に一冊しか動かない本が半分あります。そこで一位を出せば、それは「よく売れた本」ではなく「この店で目立つ場所にあった本」の一覧になります。

  • サイン本や特典で、値打ちを付けません

    同じ本を、条件の違う二つの物にしないためです。サイン会はやります(作った人が来ます)が、その日に来られない人のために、同じ本を同じ値段で置いておきます。

  • お客さんの買った本を、外に出しません

    何を買ったかは、その人のことです。写真も撮りませんし、どこにも書きません。

From customers

お客さんから

3

三つとも、起きたことの記述です。二つめは、何もお売りしなかった日の話です。

  • 値札に「初版300部・訊いた」と書いてあったので訊いたら、作った人が三百部刷って、そのうち二十冊がこの店に来た、という話を聞かされました。高いと思っていた本が、急に安く見えました。

    三十代・清澄白河

  • 探していた図録が無くて、そのかわりに美術館の図書室で読めることと、会期中なら会場がいちばん安いことを教わりました。その日は何も買っていません。

    五十代・板橋

  • 自分の作った ZINE を置いてもらえないかと持っていったら、何部刷ったか、いくらかかったか、いくらで売りたいかを先に訊かれました。置く前にその三つを訊く店は、あまりありません。

    二十代・墨田

The shop

店のこと

12坪

清澄白河の駅から五分、資材屋と喫茶店のあいだの路地です。地図は貼っていません ── B2出口を出て、清澄通りを北へ、二つめの角を左に入った先の左側で、看板は小さく出ています。

所在
東京都江東区三好 2-6-3
行き方
東京メトロ半蔵門線・都営大江戸線 清澄白河駅 B2出口より徒歩5分/都営バス 清澄庭園前より徒歩2分
電話
03-5620-4871
支払
現金・各種クレジットカード・QR決済
開業
2015年開業(一人でやっています)
休み
火曜と水曜が休みです(棚を入れ替えています)

What this page is for

奥付に、部数は書いてありません。

発行日も、刷も、発行者も、印刷所も書いてあるのに、何部刷ったかだけが 書いていない。だからうちは作った人に訊いて、棚の札に書いています。 値段の理由は、そこにしかありません。

03-5620-4871